Monopoly
「ボス、お疲れ」
「ああ」
桐山は、目前でやすやすと相手を地に伏せさせて見せた。
息一つ切らさずに。
いつ見ても、桐山の戦い振りは見事だった。
初めて会った、あの時。
三人の上級生を一瞬にして倒したあの時と。
全く変わっていない。
圧倒的な強さを誇る、桐山。
自分にとって絶対的な崇拝の対象。
ただ、
自分と、桐山との関係は。
あの時とは随分と変わっていたかもしれない。
「ボス」
充が呼ぶと、桐山は倒れた相手に向けていた視線をゆっくりと充の方へと
動かした。
いつもの事ながら、一人で数人の相手をした後とはとても思えない程落ち着いているその様子に、充は溜息をつく。
「帰り、寄ってくだろ」
「ああ」
桐山は一言そう言って、軽く学生服についた埃を払った。
肩に羽織っていたそれに腕を通し、きちんと上までボタンをとめる。
充はそんな桐山の様子を暫く眺めた後、自分の学生服に目を移す。
一番下のボタンが一つ取れかかっていた。
辛うじて、細い糸でぶら下がっている。
先程殴られた。
まだ、軽く疼く。
「行こうぜ、ボス」
充はそんな様子を桐山に気付かれたくなくて、平静を装いながら歩き出した。
桐山は黙ってついて来た。
いつもの様に、ただ静かに。
充の家はがらんとしていた。
飲んだくれの父親も昼間は一応職を持つ身だし、
気の弱い母親は最近近所の主婦達に同情されて、
少しでも気分転換にと連れ出される事が多かった。
別に寂しいとは思わなかった。
誰もいないからこそ、こうして桐山を連れてくる事に
何の気兼ねも要らないわけで。
「ふ...っ...」
充は桐山の白い肌に触れていた。
お互いに何も身につけていない状態でする行為。
滑らかな肌を辿っていくと、桐山は僅かに恍惚とした
様な表情で自分の上に居る充を見、それから、
ちょっとだけ眉を持ち上げた。
「...どうしたの?ボス」
「充、痣が」
充は少し顔を紅くした。
裸になっている今、隠せるはずがない。
何となく決まりが悪かった。
充が黙っていると、桐山は表情を変えずに言った。
「痛むのかい?」
「...平気だよ、これ位」
少しぶっきらぼうに充は言った。
「...」
桐山には、充の痩せ我慢などお見通しだったらしい。
少しの間黙って充を見つめた後、
桐山はぺろりと充の痣のある部分を舐めた。
「ん...」
妙にくすぐったい様な気持ちになり、充はまた少し頬を紅くした。
疼いていた箇所が別の熱を持ち始めるのを感じながら。
「ありがと、ボス」
充は少し笑って、桐山の細い腰にそっと手を回した。
柔らかい唇に自分のそれを重ねる。
それから、
首筋から胸元へと、段々と愛撫する箇所を移して行った。
「ん...っ...」
充に胸の突起を軽く噛まれて、桐山が押し殺した様な声を洩らし、僅かに眉を顰めた。
「ごめん...ボス、痛かった?」
「...いや」
充の手が熱くなっているそこに触れると、桐山はびくりと身体を震わせた。
既にそこは充の指を濡らす位になっていた。
「ボス、気持ちいい?」
「ん...」
桐山は返事の代わりに身体をもう一度びくりと震わせた。
充はそこへの愛撫はそのまま、もう一度桐山に口付けた。
桐山の息が乱れていた。
「ボス、もう、いいだろ?」
充が訊くと、桐山は静かに頷いた。
「みつ...る...っ...」
自分の体の下で、桐山がか細い声で自分の名前を呼ぶ。
桐山が、しっかりと自分の背中に手を回して抱きつく。
それが心地良かった。
自分の中の独占欲が満たされていくのを感じられる。
いや、それよりは。
保護欲と言った方が正しいかも知れない。
桐山に対してそんな感情を抱くのは、傲慢なのかも知れないけれど。
桐山を見ていると。
そんな素振りなど全く見せていないのにも関わらず。
ひどく痛いのではないかと。
そう思えて来る。
充はそれが堪らなかった。
どうにかしてしてあげたいとも思うし、
自分が差し出がましく割って入っていい事なのかと躊躇いもする。
桐山は自分にとってただ一人の王であって。
自分が汚していい存在などでは無かった筈なのに。
桐山は僅かに眉を寄せて、息を乱しながら、時折詰まった様な声を洩らす。
充は桐山の頬に手を当てて、そっと撫でた。
「ボス...」
充に呼ばれて、桐山がそっと瞼を持ち上げる。
充はその桐山の澄んだ瞳を見ていて、胸をつかれるような気持ちになった。
どうしてかは、わからないけれど。
「ボス...なあ、辛かったら言っていいからさ」
思わずそう言った。
桐山はちょっと眉を持ち上げてから、言った。
「いや、大丈夫だ」
「そうじゃないよ」
充は桐山の頬を両手で挟んで、口付けた。
そっと唇を離すと、桐山と目が合った。
充はもう一度、言った。
「そうじゃ、ないよ」
「...充?」
充は桐山の細い身体を大事そうに、ぎゅっと抱きしめた。
「充...どうしたんだ?」
おっとりとした桐山の声が聞こえた。
充はなんだか泣きたいような気持ちになっていた。
桐山は自分より遥かに強くて。
自分なんかには、決して届かない所に居て。
けれど。
せめてこうして肌を重ねている時くらいは。
桐山が自分だけのものなのだと。
そう、思いたい。
そう思わなければ。
辛くて、仕方なかった。
桐山の体温を間近に感じていられる。
それは、自分にだけ許されている事なのだと。
例え思い込みであっても。
充はそう思いたかった。
「ボス...」
充の隣、行為を済ませた疲れからか、
桐山は静かに寝息を立てていた。
先程まで激しく自分に抱かれていたとはとても思えない様子。
瞼にまでかかった、
艶やかな黒髪をそっと撫ぜた。
柔らかい手触りが、充のどこかもの悲しい気持ちを和ませてくれた。
「ボス...」
ずっと、ずっと側に居て。
おわり
後書き:お蘭様に捧げる第二弾、裏的沼桐。H度控えめにしたらわけわからない話になってしまいました(汗)。
ごめんなさい。遅れてしまいましたし。まだまだ修行が足りません。
充が桐山の心の闇に気付きそうで気付かないってとこが書きたかったんですが、失敗。
こんなヘボSSでよかったら受け取ってやって下さい。これからも宜しくお願い致します。